ざっと読み!脂質異常症(高脂血症)のコラム〜新しく出た高齢者のガイドラインを中心に、認知症・脳卒中・心疾患との関係、治療薬スタチンの重要点など〜
2017年10月27日、日本老年医学会で高齢者脂質異常症診療ガイドライン2017が公開されました。下記でポームページに飛べます。
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/20171027_01.html
で、上記は医療者向けの文の書き方であまり一般の方にはわかりにくい内容な気がしますので後半で私なりに噛み砕いてみたいと思います。
[:内容]
そもそも脂質異常症(高脂血症)とは?
一般事項
高LDLコレステロール血症:140mg/dL以上
高トリグリセリド(中性脂肪)血症:150mg/dL以上
低HDLコレステロール血症:40mg/dL以下
- みなさんが悪玉コレステロールというのはLDLコレステロール、善玉コレステロールというのはHDLコレステロールのことです。
- トリグリセリドは中性脂肪のことです。
家族性高コレステロール血症について
家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体
15歳以上では下記のすべてが、15歳未満では①と③が確認される場合に家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体)と診断されます。
①高LDLコレステロール血症(未治療時のLDLコレステロールが≧180mg/dL[15歳以上]または≧140mg/dL[15歳未満])
②腱黄色腫(手背、ヒジ、ヒザなどの腱黄色腫やアキレス腱肥厚)または皮膚結節性黄色腫が認められる
③2親等以内の血族に家族性高コレステロール血症または早発性冠動脈疾患の方がいる
家族性高コレステロール血症ホモ接合体
下記のすべてが確認される場合に家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)と診断されます。
黄色腫:
アキレス腱、ヒジ、ヒザ、お尻などの皮膚にコレステロールの沈着による脂肪のかたまりができたもの
アキレス腱肥厚:
アキレス腱が盛り上がって、足首からかかとにかけて段差があるような状態
早発性冠動脈疾患:
冠動脈疾患が男性では55歳未満、女性では65歳未満で発症した場合に早発性と定義されています。
高脂血症の治療薬、スタチンとは?
スタチンとはHMG-CoA還元酵素阻害剤です。・・・はぁ?ですね。
コレステロールは肝臓で作られるのですが、じつはコレステロールが作られるまでいくつかの段顔があります。メバロン酸というのからコレステロールが作られるんですけど、メバロン酸はHMG-CoAから作られます。で、HMG-CoAをメバロン酸に変えるのがHMC-CoA還元酵素です。
要するにコレステロールの材料になるものをつくるのに必要な酵素の働きを抑えるのがスタチンで、その酵素を抑えた結果としてコレステロールが作られにくくなるのです。
やはりわかりにくいですかね?
言い換えると、チーズケーキをつくるのにチーズは必要ですよね?で、チーズケーキを作らせないために、そもそものチーズを作らせないという。そんな感じです。
ちなみにこのスタチン、発見したの日本人なんですよ!
本当はもう少しこまかい機序があるんですけど、学生授業じゃないのでこの辺でやめておきます。
で、スタチンの作用はざっくりと
- 総コレステロール低下作用
- LDLコレステロール低下作用
- HDLコレステロール上昇作用
- トリグリセリド低下作用
と、まあ高脂血症に全部効くじゃん!ということですね。
スタチンの種類
スタチンにはその強さにより、スタンダードスタチンとストロングスタチンがあります。
A:スタンダードスタチン
- プラバスタチン(メバロチン)
- シンバスタチン(リポバス)
- フルバスタチン(ローコール)
B:ストロングスタチン
- アトルバスタチン(リピトール)
- ピタバスタチン(リバロ)
- ロスバスタチン(クレストール)
飲み合わせの注意点:以下の2つは一緒に摂るとき注意です!
①グレープフルーツとの飲み合わせ
アトルバスタチン(リピトール)、シンバスタチン(リポバス)はグレープフルーツを摂取すると血中濃度が上がってしまい、作用が強くなってしまう可能性があります。
もちろんグレープフルーツジュースも同じですよ!
②フィブラート
また、中性脂肪をさげる薬でフィブラートというものがあります。
商品は、
- ベサトールSR(ベザフィブラート)
- リピディル・トライコア(フェノフィブラート)
です。これらとスタチンの併用は原則併用禁忌です、ダメです。ただし、治療上やむを得ない場合は併用できるとなっております。
さて、今回のガイドラインは推奨度(おすすめ度です)によって格付けされており、質問とその解答という形式で展開されています。
たとえば、
Q:筋トレはダイエットに効果的か?
A:はい、もちろん
みたいな。(ちょっと雑すぎ?)
で、その推奨度によりグレードがAやBとなっています。
ガイドラインのQ&Aを抜粋
CQ1 脂質異常症は高齢者における動脈硬化性疾患 発症に影響するか?
●高齢者において,総コレステロール,Non HDL コ レステロール,LDLコレステロール値が高くなれば、冠動脈疾患の発症が増加する.
●高齢者における脂質異常症と脳卒中との関係は明らかではない.
CQ2 スタチンは高齢者の心血管イベント発症リス クを低下させるか?
●高齢者におけるスタチン治療は冠動脈疾患の二次予防効果が期待できる(推奨グレード A).
●前期高齢者(75 歳未満)の高 LDL-C 血症に対するスタチン治療は冠動脈疾患、非心原性脳梗塞の一次予防効果が期待できる(推奨グレード A).
●後期高齢者(75 歳以上)の高 LDL-C 血症に対する脂質低下治療による一次予防効果は明らかでない.
CQ3 スタチンは高齢者において,有害事象を増加さ せるか?
●高齢者においてスタチン治療は糖尿病の新規発症を有意に増加させるので注意する(推奨グレード B).
●がんの発症など,他の重篤な副作用の増加はない.
● CYP で代謝されるスタチンの中では,薬物相互作用による有害事象に注意する(推奨グレード B).
CQ4 脂質異常症は ADL 低下と関係するか?
●高 トリグリセリド血症,低 HDL コレステロール血症が ADL 低下と関連することを示す十分なエビデンスはない.
ADL=食事、入浴、移動、更衣などの日常生活動作のこと
CQ5 アポ E4 は ADL 低下と関係するか?
●アポ E4 は ADL 低下と関連する.
CQ6 スタチン治療は ADL 低下と関係するか?
●スタチンは脳心血管イベントの低下を介して,高齢 者の ADL低下を抑制する(推奨グレード B).
CQ7 高 LDL コレステロール血症は認知症発症と関 係するか?
●高齢期における LDLコレステロールレベルと認知症発症に関しては一定の傾向を認めない.
CQ8 高トリグリセライド血症は認知症発症と関係 するか?
●血清トリグリセライド値と認知症発症に関して,十分なエビデンスはない.
CQ9 低 HDL コレステロール血症は認知症発症と関 係するか?
●血清 HDL コレステロールレベルと認知症発症に関しては一定の傾向を認めない.
CQ10 アポ E4 は認知症発症と関係するか?
●アポ E4 はアルツハイマー病発症と有意な関係がある.
アポE4とはアルツハイマー型認知症の危険因子と言われる遺伝子です。
CQ11 脳卒中は認知症発症と関係するか?
●高齢者において脳卒中の既往は認知症発症リスクを増加させるので注意を要する(推奨グレード A).
CQ12 スタチンの内服は認知症発症を減らすか?
●スタチン内服者における認知症発症リスクの低下を示唆する結果もあるが,一定の傾向を認めない.
CQ13 エンドオブライフにおいてスタチンの中止は 可能か?
●余命が 1 年以内の患者に対して,服用中のスタチンを中止することは安全であり,QOL 向上,医療費削減につながる(推奨グレード B).
ガイドラインをざっくり復習
結局のところ、
- 脂質異常は心筋梗塞や狭心症の原因になるから、75歳未満の人や再発予防にはスタチン飲むほうがいい。
- スタチン自体の認知症に対する効果はよくわからないけど、認知症のリスクである脳卒中はリスクが減る。でも、スタチンは糖尿病になりやすくなるし、グレープフルーツジュースやフィブラートとは飲み合わせ注意だし、余命1年以内ならやめてもいいんじゃない?
- 脂質異常が直接的に認知症になりやすくなるとか日常生活のレベルが落ちるとはいえない。
というところでしょうかね。
まとめ
脂質異常症の診断基準、治療薬のスタチン、そして先月発表された高齢者の脂質異常症ガイドラインについて記述しました。
お役に立てれば幸いです。
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