脳ドック等で未破裂脳動脈瘤と言われたら?〜精神的問題、生命保険の問題が生じる!?〜
こんにちは。
今回は非常に大事な話題についてお話します。
我々脳神経外科の外来でよく経過観察する患者さんで未破裂脳脈瘤の方がいます。
未破裂脳動脈瘤については色々なホームページに載ってますので、ここでは簡単な記載にとどめておきます。ご存知の方は読み飛ばしていただいてかまいません。
未破裂脳動脈瘤について:基本事項
未破裂脳動脈瘤とは?
脳の動脈にできる小さな膨らみ(=瘤:こぶ)のことです。
成人では100人のうち数人がもっており、MRIやCT検査でたまたま発見される場合がほとんどです。中には動脈瘤が神経を圧迫してその障害を生じてみつかる場合もあります。
ウィリス輪という脳の底部にある動脈の分岐部にできることが多いです。(下図参照)
未破裂脳動脈瘤を放置したらどうなるの?
基本的に無症状ですが、破裂するとクモ膜下出血を発症します。
クモ膜下出血は発症すると死亡もしくは重篤な後遺症を生じてしまう非常に怖い病気です。
転帰は、
- 発症してから病院に到着する前に亡くなる方・・・25%
- 病院到着後に死亡もしくは重度の後遺症の方・・・30%
- 何らかの障害はあるものの身の回りのことは自立できる人・・・25%
- 障害なく回復する人・・・25%
くらいです。
ですから、病院到着後に医師の説明では「死亡1/3、寝たきり1/3、社会復帰もしくは自立が1/3」と説明されることが多いようですが、おおよそ間違ってはいないと思います。
未破裂脳動脈瘤からのクモ膜下出血の発症率については瘤の位置や形状、大きさにより変わりますので一概にまとめるのは難しいのですが、ざっくり言うと年に1%程度と患者さんには説明しています。
どんな未破裂動脈瘤が危険性が高いのか?
- 大きい(7㎜以上)
- 後ろ側の瘤(脳底動脈瘤、内頚動脈ー後交通動脈瘤)
- 前交通動脈瘤
- 形が不整、ブレブを伴う(瘤からまた小さな瘤がでている)など
- 複数ある
- 高血圧、喫煙、多発性嚢胞腎
- 家族歴(特に兄弟にクモ膜下出血がいる)
などです。
未破裂脳動脈瘤の治療は?
開頭手術と血管内手術があります。
開頭手術
全身麻酔で、頭を切って、直接脳をかき分けながら、脳の奥にある動脈瘤の根元にクリップをかけて瘤への血流を遮断することで破裂予防する方法が一般的です。しかし瘤の根本でクリップをかけることが困難な場合は大本の血管をクリップで閉塞させたり、それにバイパスを併用する方法もとることがあります。
血管内手術
カテーテルを瘤の近くまで進めて、コイルという金属を瘤に詰めて瘤への血流を遮断する方法です。バルーンやステントを使用することもありますし、近年ではフローダイバーターという大きなステントを瘤をまたぐように大本の血管に留置して瘤をゆっくり閉塞させる方法も一部の施設では行われています。
また、開頭手術同様に瘤自体にアプローチできない場合は、コイルで大本も血管つめるインターナルトラップという方法もとることがあります。
さて、未破裂脳動脈瘤の概略、治療につきましてはここまでにしてようやく本題に入ります。
脳ドック等で未破裂脳動脈瘤がみつかった!!
まず、脳ドックはむやみにやるべきではないと考えます。
以前ブログでお話したchoosing wiselyの話です。
そこにはこう書いてあります。
クモ膜下出血の家族歴のない人や脳動脈瘤のできやすい遺伝性疾患をもっている人でなければスクリーニングでの画像検査は習慣的にするべきではない
と。
動脈瘤のできやすい遺伝性疾患とは具体的に言えば
- 多発性嚢胞腎
- エーラスダンロス症候群 タイプⅣ
- マルファン症候群
- 弾性線維性偽性黄色腫
など。なんだか難しいし馴染みのない病気ですね。上記の中で多発性嚢胞腎やマルファン症候群は個人的には何度も経験がありますが。
そして、家族歴につきましては、3親等以内に2人くらいで考えています。
なので、上記の疾患や兄弟・親・いとこなどにクモ膜下出血が2人以上いれば家族歴ありとなるわけです。
未破裂脳動脈瘤と診断された場合の患者側の不利益は?
①患者さんのうつ症状、不安感が強くなることがある。
そりゃそうでしょう。破裂したら半数が死亡もしくは寝たきりになると言われるのですから。我々もその点は配慮して患者さんには説明しなくてはなりませんし、患者さん側のうつ症状などが強ければカウンセリングも考慮しなければなりません。
②保険において謝絶体になる
まず、
謝絶体とは?
→ 生命保険契約加入申込を行った被保険体の健康状態などにより危険の度合が高く、契約の引き受けができない場合をさします
ですので、保険加入後も告知義務が生じたり、新たに保険に加入しようとしても困難になってしまうケースがでてしまします。動脈瘤治療後5年経過していなければ保険加入が認められないなどもありますので、とりあえず未破裂脳動脈瘤と診断されたら、加入している保険会社の条件など確認するといいと思います。
外来での面談で伝えること、手術適応の考え方
これは文献やその施設ごとの方針などもありますが、
まずざっくりと、言います。UCAS JAPAN(ユーカス・ジャパン)という脳外科医だったら知らない人はいないだろうという超有名な報告があります。
これは日本において3mm以上の未破裂脳動脈瘤をもつ成人5720人、計6697個の動脈瘤を対象に見ていったところ、クモ膜下出血発症は111人、年間の出血率は0.95%だった。クモ膜下出血発症リスクは動脈瘤の形状、大きさ、場所による。
という内容です。
大きさ>3-4mmの破裂率を1とすると
- 5-6mmは1.13倍
- 7-9mmは3.35倍
- 10-24mmは9.09倍
- 25mm以上は76.26倍
場所>中大脳動脈瘤を1とすると
形>瘤の不整な突出がある場合は1.63倍
となります。
なので外来で患者さんと話する際、例えば40歳、脳ドックで内頚動脈ー後交通動脈分岐部に5mmで不整形の瘤がみつかったとしたら、
3-4mm 普通の中大脳動脈瘤よりも 1.13x1.9x1.63=3.5倍のリスクがあるということを念頭に置きながら説明します。
実は年間の出血率に関してはUCAS JAPANの論文に表がでていますので、実際は私をそれを参考にすることもあります。その表では上記の動脈瘤は年間破裂率は1%です。なので日本人女性の平均寿命87際まで生きると仮定すると生涯破裂率は1%×47=47%ということですね。(実際は数学的にもう少し数値は変わりますが)
結局のところ脳ドック学会や、脳神経外科学会のホームページをみますと
未破裂脳動脈瘤の自然歴(破裂リスク)から考察すれば、原則として患者の余命が10~15年以上ある場合に、下記の病変について治療を検討することが推奨される。
- ①5~7mm以上の未破裂脳動脈瘤
- ②上記未満であっても、
だそうですね。
なので、
70歳前後までで、瘤が大きくて、場所が悪い、形が悪ければ手術を考えましょう
ということです。
そうはいっても手術にはリスクもあるし、診断されることによる精神的負担や保険の問題を考えると個人的には、はたして患者さんが脳ドックでハッピーになるのかなぁと思ってしまいます。
治療せずにずっと画像検査だけみていくようなケースもあるわけですし。毎年動脈瘤が変化しているかドキドキなんて…どうですか?私は嫌です。
そう考えるとやはり、話はもどりますが、
家族歴や遺伝性疾患などのリスクのない健康な人は脳ドックはむやみにうけない
ということにつきる気がします。
今回の話のまとめ
・未破裂脳動脈瘤は1%が破裂して、半数が死亡もしくは寝たきりになるくも膜下出血を発症することになる
・未破裂脳動脈瘤は数%の大人はもっているが、偶然MRIやCTで見つかるとクモ膜下出血になるかもしれないという不安感やうつ症状の原因となりえる他に、治療されるまで保険加入が困難になってしまうケースがある
・治療のリスク、検査も含めた金銭的負担なども上記と合わせると、家族歴や遺伝性疾患ない健康な人はむやみに脳ドックを受けなくてもいいかもしれない
ちなみに、未破裂脳動脈瘤で手術せず外来でみていく場合は、血圧管理・喫煙を控える・過度の飲酒を控えるように言われると思います。そしてはじめは検査が少し頻回になるかもしれません。一回の検査ではその瘤が大きくなってきているものか、ずっと大きさの変わらないものか判断できないからです。
以上です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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