高いのに効かない薬飲んでない?高齢者糖尿病の血糖管理と投薬についてのつぶやき
今回は糖尿病です。
前半は糖尿病の概要になりますので、知ってる方は読み飛ばしてください。
http://JAMA. 2016 Mar 8;315(10):1034-45. doi: 10.1001/jama.2016.0299.
http://JAMA. 2015 Sep 8;314(10):1052-62. doi: 10.1001/jama.2015.9536.
上記は医療関係者なら大体の人が知っているジャーナルでして、ここの要点は、
- 65歳以上の男性はHbA1Cは7.0以下にしない
- 70歳以上の女性はHbA1Cは7.0以下にしない
- 2型糖尿病の第一選択はメトホルミン、第2選択からは不明
- 高齢者でHbA1Cを7.0以下にすると死亡率が増える
ということです。
糖尿病の基本知識おさらい
そもそもHbA1C(ヘモグロビン・エー・ワンシー)とは?
血液中のヘモグロビンのうちどれくらいの割合が糖と結合しているかを示す値です。過去1−2ヶ月の血糖値の平均を表していますので、普段の血糖が高い人はHbA1Cも高くなり、血糖が低い人はHbA1Cも低くなります。
「今日は検査だから、ご飯は抜いていこう!」としても無駄です、ちゃんとわかります。もちろん、通常の空腹時血糖も合わせて評価しますが。
さて、数値の見方ですが、
です。
HbA1Cは血糖の平均値、基準値より高ければ一発で糖尿病の診断です。
糖尿病には1型と2型がある
一般的に、膵臓からインスリンという血糖値を下げるホルモンがでます。
このインスリンというホルモンが機能しないと血糖値が高くなってしまうのですが、原因によって1型と2型に分かれます。
・1型糖尿病
膵臓のインスリンを出すベータ細胞が壊れてしまい、そもそも自前のインスリンが少ない。子供、若い人に多く最初はかぜのような症状のことも。治療はインスリン注射。
・2型糖尿病
遺伝的に糖尿病になりやすい人がストレス・肥満・運動不足などをきっかけに発症。自覚症状が乏しく、検診や生命保険加入時に発見されることが多い。インスリンの反応が悪くなったり、インスリンの出るタイミングが悪くなったりしている。
糖尿病は何が怖い?
①:3大合併症(網膜症、腎症、神経障害)
まず。上記の如く糖尿病には3大合併症というのがありますが、HbA1Cを6.9%未満に保っていればほとんど予防できます。(腎症は6.5%未満が目標)
<糖尿病性神経障害>
これから起こる人も多いと思います。
足のしびれ、めまい、立ちくらみ、尿が出にくい、男性では勃起障害など。
このうち、脳神経外科的には足のしびれは注意です。糖尿病が原因ではなく足根管症候群という病気のこともあり、これは外科的に治療することができるからです。しかしながら糖尿病専門医や内科の先生の認知も高くないのが課題ですが。気になる方は一度かかりつけ医に相談してみるものいいと思いますよ。
<糖尿病性網膜症>
眼底の血管が障害されて視力が落ちたり、眼底出血を起こして急に目が見えなくなったりします。眼科で定期的な診察と、必要に応じてレーザー凝固術などの治療を行うことで視力の維持ができます。
<糖尿病性腎症>
人工透析の原因第一位です。現在は人工透析があるため、腎不全になっても生きていくことができますが、週3回 1回数時間は透析をしなければならないのです。
②:脳卒中、心疾患(狭心症、心筋梗塞)、閉塞性動脈硬化症(ASO)など
糖尿病により動脈効果が進むと、上記のような血管の病気になるリスクが上昇します。
HbA1Cが高ければそれだけ早く動脈硬化が進行し、上記の病気になりやすくなるといえます。HbA1C 6.2%以下に厳格に管理するほうが心血管系のイベントリスクを減らせるという報告もあったように記憶しています。
本題はここから
さてようやく本題になります。
2型糖尿病の投薬につきまして、最近はDPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬など多彩な薬剤が出回り、製薬会社は特に高価な薬剤を推奨することが多いようです。実は私もDPP-4阻害薬というのを好んで使用していた時期があります。
薬価に関して
メトグルコ(メトホルミン)は16.7円/500mg錠(一日750mg-1500mgで維持)
ジャヌビア(シタグリプチン DPP-4阻害剤)は136.5円/100mg錠
フォシーガ(ダパグリフロジン、SGLT2阻害薬)は202円/5mg錠
と、一日量を考えるとどうしてもメトホルミンよりも高い…。
高齢者はHbA1C 7.5-9.0%が利益が最大で、害は最小!
先に紹介しました論文の要旨はこうです。
HbA1C 7%未満にする強化血糖コントロール療法に関して、
高齢者はHbA1C 7%未満にしても10年間は脳血管イベント(脳卒中、心筋梗塞)は減少しない。(80歳以上は除外されており不明)
HbA1C 7%未満にしても8年以内はそうじゃない治療をした人と比べて糖尿病性腎症・網膜症に差はない。8-15年は有効性不明、15年以上なら有効性あるかも。
つまり余命が15年以内なら、がっつり血糖下げなくて良いのです。日本人の寿命は男性 80歳、女性87歳ですから、男性なら65歳以上、女性なら大体70歳以上は血糖下げすぎなくていいいということになります。
HbA1Cが9%を超えると、多尿・脱水など悪いことも起きますので、HbA1Cの管理は7.5-9.0がマルですね。
しかもACCORD試験で「高齢者でHbA1cを7%以下にする強化血糖コントロールを行なうと死亡率が増加する」という結果もでました。よかれと思ってやってたことが逆効果に!Wow!!
ということで介護保険開始年齢の男性65歳、女性70歳になったら血糖コントロールはがんばりすぎないに限りますね。
これがどういう意味をもつか考えてみましょう。
(症例提示)
80歳代、女性、2型糖尿病で治療中。HbA1C 6.8%
内服はDPP-4阻害剤、メトホルミン、SU薬、チアゾリジンが入ってました。
- チアゾリジンは心不全、骨粗鬆症など副作用多彩ゆえ中止!
- DPP-4は値段高いわりに効果乏しいので中止!
- メトホルミンとSU薬は継続するけど、SU薬は低血糖発作を起こすことがあるので、そうなったら中止!
とできます。
血糖降下作用は、
ですので、DPP-4阻害剤やSGLT-2阻害剤は薬価高いだけにコストパフォーマンス悪いですね。
こうやって、色々薬を減らして、メトグルコだけになってもHbA1Cが7.5-9.0%の間で余裕があれば、糖尿病の投薬自体なくすことができるかもしれません。
高齢者の多剤内服(ポリファーマシー)は転倒リスクや薬物相互作用の点から避けるべきなので、まさに理想的ですね!
ポリファーマシーに関しては下記をご参照ください。
第一選択はメトホルミン、第2選択は不明!
メトホルミンも気をつけなければならいないことがあります。
- クレアチニン 1.5mg/dL以上では乳酸アシドーシスという副作用
- 造影剤使用前は中止なければならない
※クレアチニン:腎機能をみる指標
です。
専門家の中にはDPP-4阻害剤を第一選択として使う先生もいますが、専門家の意見はRCTという試験レベルで有効性が確認されていれば推奨レベルAですが、そうでなれば推奨レベルは最低ランクのEですからね。
まとめ
ということで、今回の記事の復習です。
- 高齢者(男性≧65歳、女性≧70歳)ではHbA1Cは7.0以下にしない(死亡率増える)、7.5-9.0%が目標
- 2型糖尿病の第一選択は腎障害などの問題がなければメトホルミンを、第2選択はよくわかってない。
- DPP-4阻害剤、SGLT-2阻害剤はコスパが良くない。
- 高齢者では多剤内服による転倒リスクなど悪いことも起こりやすいため、上記のHbA1C目標値の範囲内で減らせる薬は減らしましょう。
ということです。
おまけ:こういう人は糖尿病専門医に相談する
- HbA1C(NGSP)が7.4%以上が半年以上続いている
- 最近半年間で処方の変更がない
- 年齢は65〜70歳未満である。
です。
つまり、糖尿病良くなってないんじゃないの?ってこと。
糖尿病治療は先手必勝!早い方がいろんな悪い出来事を減らしやすいのです。
では
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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