脳外科医もつの日常

30代、中堅?脳神経外科医の日々のつぶやき。医療、プライベート、趣味など気ままに書いていきます。

糖質制限の真実〜糖質制限が成功するかはケトーシスにかかっている!〜

 


こんにちは。

最近YouTube等でメンタリストDaiGoさんが糖質制限は痩せない、むしろ寿命が縮む…と発言しており、糖質制限を実践している方々をざわつかせています。

 

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で、それに対してこういう批判もでています。

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私は時期に応じて「糖質制限」と増量を使い分けていますが、ここでは間違った知識で悲しい思いをしないように正しい糖質制限によるダイエットのしくみについて解説しながら少し上記動画の考察もしたいと思います。

まず、用語の確認です。

 

カロリー制限ダイエットと糖質制限ダイエットについて

カロリー制限ダイエットとは単純に消費カロリー>摂取カロリーにすることです。ただ後述する糖新生において筋分解をさけるためにこまめに食事をしたり、筋トレをして筋肉を増やすスイッチを体にいれたり、そもそも脂質を必要最低限に抑えたり、また停滞期にはタンパク質と糖質のバランスを変えたり、糖質を一時的に大量に摂取したりと考えることがたくさんあります。

 

糖質制限ダイエットは「ゆるい糖質制限」と「厳格な糖質制限」とに分けて考えるとわかりやすいです。「厳格な糖質制限」とは代謝のベースそのものを糖質から脂質に変えてしまう方法です。後述するケトーシスを作る方法になります。その一方で「ゆるい糖質制限」は代謝が変わるほどではない程度に糖質を制限する方法です。原理的にこちらはカロリー制限ダイエットと同じです。このゆるい糖質制限があまり効果的でないことはこのあと述べたいと思います。

 

代謝から学びましょう:糖新生ケトーシス

まず、私達の体はブドウ糖という糖質で主に回っています。車でいうところのガソリンですね。そして、カロリーが足りないときは体からブドウ糖をひねり出そうとします。

それが糖新生という反応で、筋肉からアミノ酸を取り出したり、脂肪からグリセロールという糖アルコールを取り出して最終的にブドウ糖を作ろうとするわけです。

ですが、エネルギーが足りないとき、例えば飢餓状態のときは脂肪が分解されたときに生じるケトン体をブドウ糖の代わりにガソリンとして使うようになります。この状態をケトーシスといいます。

 

もう少し言い換えると、

ケトーシスとは、

  • 炭水化物の代わりに、脂肪をエネルギーとして使う代謝過程のこと
  • 通常はエネルギー不足の際、脂肪や筋肉を分解して糖質に変換するが、ケトーシスの場合は直接体脂肪をエネルギーとして使用することができる

 ということです。

 

ケトーシスになると、体のガソリンがケトン体ですから、エネルギーが足りないときは脂肪を分解してケトン体を作るようになるためカロリーを制限しても筋肉が減りにくくなります。

 

このようにケトーシスの状態になるようにマクロ栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)を調整して食べることをケトジェニックダイエット(またはケトン食ダイエット)といいます。

 

ケトーシスの状態は18時間の飢餓状態で作ることができると言われていますが、それは結構つらいので糖質制限を行います。その際の一日の糖質量は摂取カロリーの10%以下にするべきと言われています。2000キロカロリー摂取するのであれば糖質は50グラム以下です。そしてそれだけでなく、摂取カロリーの60%以上を脂肪からとらなくてはなりません。

この条件を満たさないのであれば結局はケトーシスにならず、体のガソリンがブドウ糖のままなので、痩せるかどうかはただ摂取カロリーによることになります。こういう中途半端な糖質制限(=ゆるい糖質制限)は後述する理由で筋肉はどんどん減って、確かに短期的には一番体重は落ちますがやめればリバウンドしやすいダイエットです。

 

ケトーシスにならない状態での糖質制限でカロリーバランスを大きくマイナスにした場合(大体消費カロリーよりも摂取カロリーが500キロカロリー以上下回る場合)、脂肪も減りますが、それ以上に筋肉による糖新生が強くなります。

糖新生で作ることができるブドウ糖量はせいぜい80g、コンビニのおにぎり2個分程度です。その一方で脳が一日に100g以上ブドウ糖を消費しますので、集中力の低下、筋肉減少など不調がきて当然です。特に筋肉の低下はよりインスリンというホルモンが中性脂肪に作用しやすくなるため余剰のカロリーが中性脂肪を増やす方向に働きやすくなります。

プロテインスペアリングという言葉がありますが、糖質を摂ることで体のタンパク質の必要量をへらすことができるということですが、逆に糖質制限をするとタンパク質の必要量が増えてしまうので、糖質を減らすならその分タンパク質を多く摂らないと筋肉は減りやすくなります。(ケトーシスになれば、ケトン体の存在により筋肉は分解されにくいので大丈夫です)

 

ここまでのお話して、中途半端な糖質制限は体重が短期的に減るものの、体の調子は悪くなるということはなんとなくご理解いただけたかと思います。

Daigoさんの紹介した論文ではおそらく上記の中途半端な糖質制限をやっていて、ケトーシスまでの有無までは評価されていないように思います。

 

ケトーシスは通常のカロリー制限より痩せやすいのか?

 脂肪は1gで9キロカロリーです。そして20%の水分を含みますので1kgの脂肪を燃やすためには7200キロカロリーをマイナスにしなければなりません。一日の摂取カロリーを消費カロリーよりも500キロカロリーずつマイナスになるようにしても単純計算で1ヶ月に脂肪2キロ分です。(実際そううまくはいきませんが)

 

実際ケトーシスにしても上記の原理はあてはまります。

ケトジェニックダイエットの減量の経過をお話しますと、はじめの2週間くらいは糖質摂取量が減ることによって筋グリコーゲンが減り、結果として体内の水分が抜けていきますのでその短期間だけで2-3kgの減量もありえますが、その後は1週間に0.5kg-1.0kg前後くらいで減量していきます。もちろん、より厳しく摂取カロリーを制限すればさらにハイペースで体重は減っていくと思います。

 

 さてここまでお話をして、上記の批判動画での話をしましょう。

 

そこで引用されている論文の図は下記です。

Z、O、T、Aそれぞれで食事中の糖質量が違うわけですが、いずれも摂取カロリーはい一日1500キロカロリー程度、糖質摂取量はAが一番少ないようですがそれでも一日100gは摂っているようです。

 

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動画作者は糖質制限が効果あると言っていますが、減量に差がでているのは初めの2ヶ月だけでそこからの変化はどの条件も差がなく、残念なことに全ての条件において開始2ヶ月〜12ヶ月で体重変化にあまり差がないようです。

これは、どの条件でも結局ガソリンはブドウ糖のままになり、ケトーシス状態を作れず、また一日1500キロカロリーという基礎代謝程度の少ないカロリーで続けた結果、2ヶ月以降は糖新生による筋肉減少により代謝が落ちたためと予想されます。また、人間の体にはホメオスターシス(恒常性)といって状態を維持しよういう性質がありますので、慢性的なカロリー不足により低燃費な体になったとも考えることができます。この状況を打開する方法は糖質のRefeed(リフィード)タンパク質と糖質のバランスを変えることで減量が続くと思われますが・・・。この話はまた別の機会に。

 

 ケトーシスが通常のカロリー制限ダイエットよりも痩せる理由

話は戻りますが、ケトーシスは非常にわかりやすく停滞期も3ヶ月程度なら見られない効率の良い方法です。

 

通常のカロリー制限では代謝を維持しながら痩せていくとなると、一日あたり500キロカロリー程度のマイナスしかできませんが、ケトーシスであれば必要なタンパク質量をとりながらカロリーの6割以上を脂質から摂るという条件下においてより大きなマイナス幅で摂取カロリーを設定できます。

 

そして、脂肪からの糖新生による代謝UPも大きいです。

 

糖質をかなり減らしたら低血糖になるのではないか?と思う人もいるかもしれません。しかし、糖質を厳しく制限しても、実は血糖はある程度維持されます。その理由は脂肪の代謝にあります。

脂肪は分解されるとグリセロールと脂肪酸にわかれ、グリセロールはブドウ糖に、脂肪酸はケトン体になります。(← 脂肪分解過程において糖が作られる!=脂肪からの糖新生

糖質制限を行うことにより血糖維持およびケトン体生成のために、脂肪はどんどん分解されます。この反応は諸説ありますが一日に400-600キロカロリー分になるとも言われています。

したがって、正味の消費カロリーが増えることでカロリー制限よりもハイペースでの減量が可能となります。

 

ケトーシスがもたらすその他の効果について

ここで詳しくは述べませんがケトーシスのメリットには主に下記があります。多くはケトン体、BHB(ベータヒドロキシブチレート)の体への効果になります。

  • 体重減少
  • エネルギーレベルの改善:血糖の急降下、food comaがなくなる
  • 精神集中の改善:脂肪による持続的なエネルギー供給
  • 長生き、予防医学的効果アルツハイマー予防、抗炎症効果、抗癌作用、抗てんかん、糖尿病改善)
  • フィジカルパフォーマンス向上:持続的エネルギー供給によるスタミナ向上(注)

 

注)瞬発力は糖質を摂取している場合より劣るとの意見もあるが、MCTオイルやBHB(ケトン体の1種)を摂取することにより改善されると言われています。

 

 

どうでしょうか。

糖質制限は正しく行えば非常に有効です。

よろしければ他の投稿もご参照ください。

これからケトーシス状態を作りたい、ケトジェニックダイエットを始めたいという方へ。大事なのは徐々に糖質を減らすのではなく、始めるならその日から糖質は一食につき5g以下、脂質は60-70%にしましょう。

 

また別の機会にケトーシスからリバウンドせずに通常の食事の戻す方法もご紹介したいと思います。