脳外科医もつの日常

30代、中堅?脳神経外科医の日々のつぶやき。医療、プライベート、趣味など気ままに書いていきます。

透析患者ではLDLコレステロールが「悪玉」とは言い切れない理由

LDLコレステロールというと、みなさん「悪玉コレステロール」というイメージがあるかもしれません。検診でもLDLコレステロールが高いと、薬を飲みましょうと言われたりますよね。

 

ところが、今回はそんな嫌われ者のLDLコレステロールが高いほうが良いケースもあるよ、という話です。前半はわかりにくいかもしれないので、後半の「まとめ」から読んでもいいかもしれません。

大事なことは色文字・太字にしてありますので、そこらへんだけつまんでもいいと思いますよ。

 

 

 

 

2017 Kidney weeks取材班からの記事がありましたので、紹介します。 

 

 

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Kedney weeksの報告内容

序論

血液透析患者では血清総コレステロール値が死亡リスクと逆相関することがよく知られています。

一般的に、LDL-コレステロール(LDL-C)の高値は脳卒中心筋梗塞といった病気のリスクとなるため、死亡リスクの上昇につながりますが、血液透析患者にはそれが当てはまりません。

血液透析患者の死亡原因の第1位は心血管疾患ですが、次に多いのが感染症であり、LDL-Cは細菌性毒素の吸収および不活化に働いて、先天免疫に関与している可能性が考えられています。

 

米・University of California Davis School of MedicineのGeorge A. Kaysen氏らは、こうした観点から血液透析患者のアウトカムに関する国際的なデータベースを解析し、実際にLDL-C高値が感染症による死亡リスクの低下と関連していることを、米国腎臓学会・腎臓週間(ASN Kidney Week 2017、10月31日~11月5日、ニューオーリンズ)で報告しました。

 

研究の方法

 2000年1月1日〜12年12月31日に血液透析を開始し、少なくとも1回は血清脂質などの測定が行われている患者1万4,650例(男性60.2%)を対象とした。最終の測定から4年後までの全死亡、感染症による死亡、心血管疾患(動脈硬化性疾患)による死亡を追跡して、血清脂質との関連を時間依存性共変量のCox回帰モデルで解析した。

 

結果

 その結果、炎症マーカーであるC反応性蛋白(CRP)や好中球/リンパ球比(NLR)を含む多変量モデルにおいて、LDL-C高値、HDLコレステロール(HDL-C)高値、トリグリセライド(TG)高値は、いずれも全死亡リスクの低下と関連していた。また、LDL-C高値は感染症による死亡リスクの低下とも関連していた(。HDL-C高値も透析歴をモデルに含めると感染症による死亡リスクの低下と関連していた。

 

血液透析患者の動脈効果はLDLコレステロールよりも炎症が関与している

今回の解析で、HDL-C高値は動脈硬化性疾患による死亡リスクの低下と関連していたが〔ハザード比(HR)0.44、95%CI 0.33~0.60、P<0.0001〕、LDL-C高値(同 0.92、0.83~1.01)やTG高値(同 0.99、0.82~1.21)が動脈硬化性疾患による死亡リスクを上昇させることはなかった。

 血液透析患者においてLDL-C値が高いほど生命予後が良いのは、栄養状態の反映と考えられてきたが、LDL-Cが高値であるほど全死亡の他、感染症による死亡が減少しており、Kaysen氏らは「そのことが血液透析患者ではLDL-Cの低下が必ずしも予後の改善につながらないことの理由ではないか」と指摘している。血液透析患者における動脈硬化性疾患ではLDL-Cよりも炎症の関与がより大きく、炎症そのものや細菌性毒素などが炎症を起こすプロセスの抑制がより重要な可能性があるという。

 

という、ここまでほとんど抜粋に近いんですけど。。。

 

大事なのは、

血液透析患者においては、確かに心筋梗塞脳卒中などの動脈硬化性疾患のリスクが高いけれども、一般にそれらのリスクと言われるLDLコレステロールが高い方が逆に生命予後がいい(中性脂肪HDLコレステロールも高くていい)ということ、感染症だけでなく動脈硬化の原因としても炎症の抑制が重要であるということですね。

 

 

 個人的な意見

で、これが、臨床にどう活きるか個人的な意見を述べますと、

スタチンなど脂質系の薬を減らせる可能性がある

「透析患者 → 脳卒中心筋梗塞のリスク → LDLコレステロール下げなきゃ!」

と考えていたら、むしろ色々と薬が増えそうですが、逆に薬を減らす動機になりますよね。だって、LDLコレステロール中性脂肪も高くていいんだから。しかも透析患者死亡原因第2位の感染症もLDLコレステロールが高いほうが少ないときたら…ねぇ。

 そもそも、透析患者さんは飲んでいる薬の量が多いので、薬を少しでも減らすことができたら、それはうれしいことですよね!

 

アスピリンを飲んでいると効果あるのかも?

 アスピリン(バイアスピリン)は炎症を抑える働きがありますが、血をサラサラにする薬として透析患者さんは脳梗塞心筋梗塞の再発予防に使用していることがしばしばあるのです。他にはシロスタゾール(プレタール)やクロピドグレル(プラビックス)など。

 なので、もし、アスピリンの抗炎症作用が透析患者さんの予後を上記の理由で改善するとしたら、もしかしたら透析患者における抗血栓療法(血をサラサラにする治療)の方針が変わるかも…なんて。

 

 ちなみにアスピリンの内服で妊孕性が向上する(妊娠しやすくなる)という報告もあります。不妊の原因として炎症が関与しているというのが理由のようですけど。まぁこれは、鵜呑みにしなくていいかなと。胎児の影響もありますし。一般的に器官形成期の妊娠28−50日は飲まない方がいいですし、低用量アスピリンでも妊娠28週までにはやめたいですね。

 

まとめ

  • 透析患者においてはLDLコレステロールをはじめ、中性脂肪HDLコレステロール高値の場合の管理も厳格である必要はないかもしれない
  • 上記の理由で、透析患者においてスタチンなど脂質異常症の治療薬を減薬/中止できる可能性のほか、炎症を抑制する投薬が予後を改善できるかもしれない
  • また、脂質異常の治療薬の減薬は肝臓で代謝される薬が多くなりがちな透析患者にとって肝障害のリスク軽減のほか、多剤内服による副作用、服薬管理上も利益があると思われる。

 

 

今回は以上です。

 

 

脂質異常、スタチンに関してはこんな記事も書いています。

 

motsutaro.hatenablog.com