頭部外傷(軽症〜中等症)と脳震盪、スポーツ頭部外傷とその後の競技復帰について
今回は重症でない頭部外傷についてです。
内容盛りだくさんですが最後までおつきあいいただけますと幸いです。
- Glascow coma scale:GCSとは
- 頭部外傷の定義
- 頭部外傷の危険因子について
- 診断後の方針について
- 脳震盪とは
- スポーツ(競技)関連の頭部外傷について
- 軽症〜中等症頭部外傷患者の退院指導
- 軽微な頭部外傷について:頭蓋内合併症心配なし
- 受傷に相関しない頭部外傷の危険因子:CTとることが多い
- 最後に
まず、いろいろと述べるにあたり、脳神経外科の中では非常に重要な患者さんの意識状態を表す尺度、グラスコー・コーマ・スケール(Glascow coma scale:GCS)について簡単に記載いたします。
Glascow coma scale:GCSとは
開眼機能(Eye opening):「E」
- 4点:自発的に、またはふつうの呼びかけで開眼
- 3点:強く呼びかけると開眼
- 2点:痛み刺激で開眼
- 1点:痛み刺激でも開眼しない
言語機能(Verval response):「V」
なお、挿管などで発声が出来ない場合は「T」と表記する。 扱いは1点と同等である。
運動機能(Motor response):「M」
- 6点:命令に従って四肢を動かす
- 5点:痛み刺激に対して手で払いのける
- 4点:指への痛み刺激に対して四肢を引っ込める
- 3点:痛み刺激に対して緩徐な屈曲運動(除皮質姿勢)
- 2点:痛み刺激に対して緩徐な伸展運動(除脳姿勢)
- 1点:運動みられず
GCSは正常は満点の15点です。(満点の時はE4V5M6と記載)1点でも低下すれば異常です。細かいことは一般の方にはあまり関係ありませんが、国際的にこのような尺度があり、日頃我々もGCSを用いながら診療しています。
頭部外傷の定義
下記のごとく頭部外傷の程度には定義がありますので、御覧ください。
軽症>
GCS 13-15点、30分以内の意識消失、24時間以内の外傷性健忘のすべてを満たす。(ただし薬物やストレス障害の影響を除外すること)
中等症>
GCS 9-12点 ,30分~24時間以内の意識消失、1~7日以内の外傷性健忘。
外傷性健忘:
頭部外傷により言語で表現できる記憶が障害された状態。頭をぶつけたことによる記憶喪失、物忘れ…といった具合。
頭部外傷の危険因子について
上記の軽症頭部外傷でも頭蓋骨の骨折や脳挫傷などの外傷性脳出血を起こしている場合があります。下に載せました表が危険因子と言われているものです。
診断後の方針について
基本的には入院して経過観察することが多いと思います。
入院適応について
意識レベルの低下、神経学的異常所見、頭部CT異常所見(すぐに脳外科を呼ぶ必要性のないもの)が認められた場合は経過観察入院とします。
その他入院適応
- 激しい頭痛、持続する悪心または嘔吐
- 5分以上の健忘
- 被刺激性の亢進、異常行動
- 外傷後痙攣
- 頭蓋骨骨折の存在
- 神経症状の遷延
- 評価が困難(薬物中毒など)
- 自宅で患者を観察できる成人がいない
入院後の指示
医療者向けには下記のように管理を行います。
- 少なくとも24時間の入院観察。安静臥床の必要はない
- 最初の数時間はくりかえし神経症状をチェックし、神経学的に悪化するようなら再度CTを撮影する
- 意識が清明になるまでは絶飲食
- GCS≦13の場合はICUで観察
- 必要により血中アルコール濃度測定や薬物中毒に対する簡易尿検査(トライエージ)を
やはり睡眠薬やアルコールなどの薬物中毒が疑われる方については、GCSなど意識状態の確認が正確にできないためCT検査や入院の閾値は下がりますし、適宜尿検査で確認します。
帰宅させても良い基準
- GCS 15で、意識消失、外傷性健忘、危険因子のいずれもない場合
- CT所見に以上なく凝固障害や多発外傷などがない場合
- 帰宅の許可は受傷後少なくとも6時間以後が勧められる
上記を満たす場合に帰宅できます。受傷者を見れる人がいるかどうかによっては入院や自宅での観察も許可できる場合があります。
仕事または学校復帰の基準
- 症状が残っている場合は一定期間休息
- 最高の状態で日常活動に戻れるようにすることが勧められる
- 疲労感を訴える場合、段階的に復帰できるように配慮する。
とくにスポーツ絡みの頭部外傷につきましてはSCAT3など段階的な復帰の基準があります。
ここで脳震盪について触れておきます。
脳震盪とは
外傷を起因とした精神状態の変容を指し、意識消失の有無は問わない。昏迷、健忘は典型的な症状である。
→ つまり、頭の怪我して、出血や骨折などなくても、なんか調子悪ければ脳震盪ということ。
脳震盪の程度について
grade Ⅰ:
意識消失を伴わない一過性の意識混濁が15分以内に改善する
grade Ⅱ:
上記が15分以上遷延する
grade Ⅲ:
30分未満の意識消失を呈する
☆意識消失が30分以上持続、あるいは外傷性健忘が24時間を越える場合は軽症頭部外傷とは診断できません。その場合は中等症となります。
スポーツ(競技)関連の頭部外傷について
競技中の脳震盪評価について
こんなものもありますので必要に応じて参考にしてみてください。
脳震盪診断時の競技復帰について
- 脳震盪が疑われる場合はその場ですぐ競技中止
- 脳震盪かどうかの判断は上記の手引かSCAT3を用いてよい
- 脳震盪が疑われる場合あ、脳震盪に詳しい医療スタッフか医師の診察を受ける
脳震盪と診断したら同日の競技復帰はできません。十分な休息をとり症状が完全に亡くなるまで競技復帰は望ましくありません。若年者や小児は回復に時間がかかることがあります。症状が消失したら段階的復帰プログラムで徐々に負荷を増やしていきます。
<段階的復帰プログラム>
- 活動なし
- 軽い有酸素運動
- スポーツに関連した運動
- 接触プレーのない運動・訓練
- 接触プレーのある運動・訓練
- 競技復帰
各段階を24時間毎に進み、5段階に進む前にメディカルチェックを受けましょう。各プログラムにおいて症状が出現した場合は休息の後に最初に戻ります。
器質的脳損傷を有する場合の競技復帰について
すでに器質的脳損傷が確認された場合(脳挫傷、急性硬膜下血腫など)はたとえ症状が消失し画像上の病変が消失した場合でも頭の頻繁な打撃や回転を伴うコンタクトスポーツ(柔道やボクシングなどの格闘技、アメフト、サッカー、スノーボートなど)は原則控えるべきです。
今後、多少の器質的損傷なら問題ないという論文もでてくるかもしれませんが。もちろん競技復帰については担当医と相談しましょう。
軽症〜中等症頭部外傷患者の退院指導
私の場合の退院指導内容をご紹介いたします。
⬇⬇
以下の説明を行った後、適切な観察ができる家族などがいる場合は退院とします。
★頭部外傷の診察により、現時点では合併症の存在が明らかではないこと
★数日の監視が必要であり、とくに最初の24時間は注意が必要である
★以下に示す症状を呈した場合には病院での再評価が必要になる
- 傾眠または覚醒困難な状態の遷延:最初の6時間は2時間毎、その後の24時間 は6時間毎に確認する
- 昏迷
- 頭痛、悪心、嘔吐
- 痙攣
- 四肢の筋力低下、言語障害
- 鼻または耳からの出血、髄液漏
★軽度の頭痛、悪心、めまい、記憶や集中困難といった症状は頭部外傷後によくみられるものであり、再診の必要はない
★少なくとも3日間は飲酒を控える
★約2週間は新たな頭部外傷の危険のある運動は避ける
★鎮痛薬は使用しない(アセトアミノフェンのみ鎮痛薬として使用可能)
多少スポーツによる脳震盪の復帰プログラムとの相違もあります。全員が接触プレーを含む練習をする前にメディカルチェックを受けられるとはかぎりませんので。
その辺はケースバイケースとなります。
実は頭をぶつけたときにCTを撮影しなくていいくらいの頭部外傷のカテゴリーもあります。(=軽微な頭部外傷)
軽微な頭部外傷について:頭蓋内合併症心配なし
この患者群は頭蓋内合併症の危険が全く存在しない。
以下の項目をすべて満たす患者です。
- 意識消失および健忘なし
- GCS 15
- 神経症状なし(局所の頭痛は含めない)
- 神経学的異常所見なし
- 陥没骨折、頭蓋底骨折、穿通性外傷の臨床症状なし
こういう人は頭部CTは撮影しなくていいです。
しかし「例外のないルールはない」ということわざもありますので、
受傷に相関しない頭部外傷の危険因子:CTとることが多い
上記のケースでは頭部CTを撮影する閾値が低くなりますので、たとえ大丈夫そうに思えても念のため検査をしたほうが良いかもしれません。
※上記抗血栓薬とはいわゆる血をサラサラにする薬のこと
※凝固障害を伴う疾患とは、白血病、紫斑病、血友病など。また重度の肝障害も含みます。
最後に
頭部外傷には、通常CT検査の必要のない軽微な頭部外傷と呼ばれるものから、軽症でも入院を要するものまであります。特にスポーツ関連のものについては学校教員の方も含めて認識しておいて損はないと思います。
頭部外傷はしないに限りますが、スポーツの秋、そしてこれからゲレンデに出かける方など気をつけてお楽しみください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。