この検査、本当に必要なの?。病院での不要な検査とは?高価値医療のために、賢い選択を。choosing wiselyについて。
今回は不要な検査についてです。
はじめに
米国発の「不要な検査・治療リストキャンペーン」が世界的広がりを見せています。その背景にあるのはアウトカム(診療の成果)に加え、検査・治療に伴う有害事象やコストを減らすことで、「高価値医療」を実現しようという新しい考え方です。
「軽度の頭部外傷で頭部CTを行わない」「眼底や眼圧などの毎年の眼科検診は小児には不要」「経口避妊薬の処方に膣内診は不要」…など。
これらは、2011年に米国内科専門医認定機構(ABIM)財団が始めた「Choosing Wisely(賢い選択を)」というキャンペーンに賛同した米国の各専門学会が、「患者に不利益を与えている可能性があり、考え直すべきもの」として提示した「5つのリスト」(Top Five List)の一部です。
HPは下記⬇
こうした動きは米国を中心にカナダ、オーストラリアなどに広まり、学会レベルで数百項目が出されて言います。
ついでに、日経メディカル記事も抜粋⬇
「高価な医療機器や新薬が続々登場している昨今、欧米では費用やリスクとアウトカムとのバランス、すなわち価値(value)を中心に医療を論じることが研究者のみならず、臨床家の間でも広がってきている。Choosing Wiselyキャンペーンでいう不利益とは、検査・治療の身体的負担、精神的負担、費用負担などで、検査で偽陽性が出た場合の不利益まで含まれる。」
ということなんですよね。
例えば、脳動脈瘤は破裂するとクモ膜下出血を引き起こすのですが、たまたま脳ドックで脳動脈瘤が指摘され、まるで頭のなかに時限爆弾がセットされたかのような不安感や、その後うつっぽくなる人もみてきました。
言い換えますと、検査をすることによる利益は、
早期発見による早期治療、大きな手術と受けなくてすむという経済的・身体的負担の軽減というところでしょうが、
逆に
早期発見による、その後の経過観察としての画像検査を含めた経済的負担、病気をもっているという精神的負担などの不利益もあるのです。
もちろんレントゲンやCTでは被爆の問題もあります。検査自体に危険性を伴うこともあります。
(ちなみに脳ドックという言葉は日本にしかありません、笑。本当に必要なんですかねえ…)
choosing wiselyは日本にも広まりつつある
- 我が国では国民医療費が40兆円を超えて伸び続けており、医療保険制度の持続性に対する懸念が高まっている。
- 病院勤務医の不足による医師の長時間労働や過労も問題視されている。
- 高齢化に伴い今後ますます増加する検査や治療の件数を放置することは、医療サービスの低下や医療ミスの増加につながる可能性。
このような状況に対して医療不信を募らせる患者も少なくないですし、過剰な医療を見直そうという国際的な動きは、日本でも歓迎されるべきですよね。
choosing wiselyのホームページ
例えば、こんな感じで右の検索項目にKEYWORDで「head」と入力すると21個の検索結果が出てきて、学会名と推奨項目が列挙されます。英語なので、ちょっと苦手な方は大変ですけど。
基本的には、「Don’t~(しない)」「should not~(すべきでない)」「~is not necessary(必要でない)」といった否定文で示すことになっています。あくまで過剰医療を対象とした啓発なので。
我々脳神経外科に関することを抜粋しますと、
- 成人の頸動脈狭窄は症状がなければ検査する必要がない
- 重症ではない頭痛で画像検査は不要
- 単回に失神で、頭部CT・MRIは不要
- 失神したからといって頸動脈の画像検査をしない
- 認知症の脳のPET検査は専門家に相談してから
- 神経学的所見や頭蓋骨骨折の心配がない脳震盪に頭部CT・MRIは不要
ですかね。
他に癌関係では、
など。
そもそもなんで医療従事者は患者に対し、過剰な医療行為を行ってしまうのか。
医師の心情としては、
- 「少しでも不安を取り除きたい」という患者の要望に応えたい
- 新たに登場した検査や治療方法に期待している
- 何もしないよりはまし
- 今までその方法でやってきた
- 行わなかったことにより罪を問われるのを避けたい
- 検査を行うほど儲かる
などでしょうか。ギクっとする同業の方、いますよね?
あとは、外来でよくあるパターンとして、患者さんがその検査をしてほしくて来院される場合もあります。そういう患者さんに「その検査は必要ありません」ということを納得してもらうのは時間と労力をすごく必要とする場合があるのです。
「本当は必要ではないけれど、写真をとって異常無いことを見せれは患者さんはすぐ納得してくれる」という考え、言い換えれば、外来診療を円滑にするために本来やらなくてもいい検査を行うことも沢山あるのではないでしょうか。診察の前に先に検査に行かされる場合は、そのようなことがあるかもしれません。
さいごに
choosing wiselyにあるような各学会の提言は、医療従事者が「この患者さんにこの検査・医療行為は必要なのかな?」と自問自答させ、過剰医療を踏みとどまらせるよりどころになるかもしれませんね。
診療は医療従事者と患者の相互の信頼関係が大事です。
より高価値な医療の実現のために、私も日々勉強していきたいと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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