脳外科医もつの日常

30代、中堅?脳神経外科医の日々のつぶやき。医療、プライベート、趣味など気ままに書いていきます。

女性の頭痛のみかた〜月経時片頭痛、妊娠・授乳中の対応まで〜

 今回は女性の片頭痛についてです。(2017.11.15更新)

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はじめに

日本に於いて片頭痛の有病率は8.4%、女性12.9%、男性3.6%で女性は男性の3.6倍。緊張性頭痛は女性26.4%、男性18.1%で男性の1.5倍、日常生活の支障も女性は4割くらいが感じているのに対し男性は2割程度とこれまた女性の方が強い。

 

このような性差は月経、妊娠、出産、授乳、閉経など女性ホルモンの変化が大きく関わっています。

女性は月経との関連からの頭痛頻度も高く、急性期治療を頻回に行うため薬物乱用頭痛に陥りやすいのです。

月経時の片頭痛を生理痛と考え適切な治療を受けていない人も多く見られます。

更年期は女性ホルモンであるエストロゲンの低下、この時期ならではの家庭・社会生活の変化で頭痛が増悪しやすい傾向があります。

一般的に閉経後は片頭痛の約7割が改善すると言われています。

 女性の頭痛:月経時片頭痛

女性に関係したものとして今回は月経時片頭痛に焦点をしぼって解説していきます。

もちろん実臨床では薬物乱用頭痛や、緊張性頭痛も混ざっていることがしばしばありますので、複数の要因が混ざり複雑化した頭痛の方では神経系の専門医や頭痛に慣れた先生でなければ治療は困難でしょう。

月経時の片頭痛の分類

頭痛の分類においては、前兆のない片頭痛は、

  1. 前兆のない純粋月経時片頭痛
  2. 前兆のない月経関連片頭痛
  3. 前兆のない非月経時片頭痛

と3つに分かれます。1は月経時のみの片頭痛、2は月経時以外にも見られるもの、3は月経時と関係のないものです。

 

ここでの月経期間の定義ですが、月経開始日±2日くらいです。月経開始前の頭痛も月経時頭痛に含まれることに注意。

純粋月経時頭痛は1割未満ですが月経関連頭痛は6割程度になります。

月経3周期のなかで2回異常あれば月経時頭痛の診断となります。

 

月経時片頭痛の予防法
  • 主としてトリプタンを使用する
  • ナラトリプタン(アマージ)や、ロキソプロフェン(ロキソニン)などのNSAIDsを月経の2−3日前から定期内服、3−5日間内服する。
  • トリプタンやNSAIDSの使用が10回を超える場合は通常の一般予防療法を行う。

 

尚、アマージは1回使用すると24時間は使えません。

<処方例>

・アマージ 頭痛時(痛くなりはじめ:前駆期に内服)

・セレコックス 100mg 2錠分2 朝・夕 月経開始2日前から内服・・・5日間

 

 

※NSAIDS(エヌセイズ):非ステロイド性抗炎症薬。ロキソニンボルタレンアスピリン、ブルフェンなどのこと。

 

月経時片頭痛の特徴

エストロゲンが急降下する月経時や排卵時に起こる

  • 前兆がない
  • 高頻度である
  • 重症(とても痛い)
  • 悪心・嘔吐が強い
  • 持続時間が長い
  • 治療が効きにくい

 

妊娠の可能性があっても片頭痛の治療はできる
  • 一般的に受精後18日間は胎児は母体血の影響を受けませんので、月経予定日までの服用は心配いりません。月経が遅れる、妊娠の可能性があればすぐに中止しましょう。
  • 月経が不規則な方は基礎体温をつけるなどして慎重に。
  • 妊娠反応検査は受精後10日で陽性になりますので、可能性があれば早めに検査を行いましょう。
  • 一般予防薬のバルプロ酸デパケン、セレニカ)は一日800mgを超えると催奇形が出やすくなるますので多くとも600mg以下にし、徐放剤を使用します。
  • 低用量ピルに関して、影響がない〜片頭痛を改善すると言われています。ただし、前兆がある片頭痛ではピルは禁忌です。

 

妊娠中は片頭痛は改善する

妊娠中はエストロゲンが高くになるため片頭痛は減少します。

減少率は妊娠初期57%、妊娠中期83%、妊娠後期87%と出産が近くなるにつれて減少していきます。

しかし、出産後48時間以内4%、1週間以内34%、1ヶ月以内53%と出産後は片頭痛は再発していきます。

服薬は妊娠2〜4ヶ月は胎児の器官形成期であるため控え、妊娠5ヶ月以降はアセトアミノフェンカロナール)を第一選択とします。 

妊娠後期はNSAIDは避けましょう(動脈管が狭くなり、胎児の肺高血圧などの危険性が生じます)

エルゴダミンは子宮収縮作用はあるため禁忌です。

カルシウム拮抗薬(ミグシス、テラナス)も禁止になっています。

トリプタンでは、イミグランのみデータがあるため妊娠中に使用しても問題ないとされています。原則禁忌ですが、もし使用したとしても中絶の必要はありません。

妊娠中の予防薬は保険適用はβ遮断薬のインデラルがあります(やむを得ず使う場合)

 

授乳中の服薬:アセトアミノフェンカロナール

トリプタンを使用する場合は、授乳を24時間あけましょう(イミグランは12時間という意見もある)

片頭痛が重度で予防療法やトリプタンを頻回に使用せざるを得ない場合は、母乳育児をはやめに切り上げることも考慮しなくてはなりません。妊娠と薬情報センター(https://www.ncchd.go.jp/kusuri/)も参考にしながら家族・薬局と相談しましょう。

 

 

まとめ

重要点を振り返ります。

  • 月経時頭痛は月経開始2日前から含まれる
  • 月経時片頭痛は①ナラトリプタン頓用②NSAIDを月経2〜3日前から服用
  • 妊娠中は徐々に片頭痛は減るが、出産後は再発する
  • 妊娠2-4ヶ月は服薬は控える、5ヶ月からはアセトアミノフェン
  • 授乳中の重度の片頭痛は、母乳育児を切り上げることも考慮する

 

片頭痛は30歳台でピークになり、閉経後は改善します。(その代わり緊張性頭痛が増えてくるのですが。)しかし若い時期の治療がしっかりなされないと慢性片頭痛として長く付き合っていかなくてはならなくなります。はじめにも言いましたが、外来に来る患者さんは片頭痛だけというとよりは緊張性頭痛や薬物乱用頭痛が混在していたり、ときにうつ病の周辺症状としての頭痛を訴える方までいらっしゃいます。

 

近所の開業医でNSAIDだけ出されている、市販薬を沢山使用していても一向に治らない頭痛をお持ちの方など、困っていたらまずは頭痛専門医や神経系医師(神経内科脳神経外科)へ相談しましょう。

尚、起床時に一番痛いし吐き気もあるけど、夕方にかけて改善してくる頭痛…は脳腫瘍など頭蓋内圧亢進症状を反映した二次性頭痛の可能性もあります。その場合は早急に受診してください。

 

 

以上です。

 

 

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