主訴が吐血なのに…脳卒中!?
こんにちは、まさかの一日2回の更新。
今回はタイトルに有ります通り、少し症例の話をしたいと思います。
主訴とは
患者が医師に申し立てる症状のうち主要なものと大体言われています。(紹介状はそうでもないこともあるのですがとりあえずこのまま進めます)
救急当直や外来をしていると、
問診票、看護師などスタッフからの申し送り、救急隊からの搬送依頼などで主訴はなにかということが一つ大事になります。病院によっては主訴が何かということから、連絡する専門当直を決めるくらいです。
例えば
・胸痛 → 循環器当直(循環器科、心臓血管外科)
などです。
昔私が勤めていた病院であったことをお話します。
60代の男性、家の中で血を吐いて倒れていたところを帰宅した家人が発見し救急要請とうことでした。
主訴は吐血 ということでした。
内科当直が当直医は研修医と、消化器内科の若手の先生でした。
患者が搬送されるなり、点滴、採血などが施され胃カメラをすることになりました。
別にこの流れは別にかわったことではありません。
なぜなら、吐血といえば多くの場合が胃潰瘍・十二指腸潰瘍(たまに胃癌)・食道静脈瘤破裂といった上部消化管出血が一般的だからです。
そして胃カメラをしたところ、胃潰瘍はありましたが、すでの出血はおさまってきており、特に内視鏡で止血処置さほどかからずに救急の部屋にもどってきました。
しかし、患者さんの意識はもどりません。
吐血で意識が悪くなるケースとしては
・吐血したものの誤嚥による気道閉塞による窒息
・吐血による失血が多いことによる出血性ショック
が主になるかと思いますが、患者さんの呼吸状態は悪くなく、血圧や脈拍もショック状態を表すものではありませんでした。
(ここでようやく)頭部CTを撮影したところ、なんとクモ膜下出血でした。
クモ膜下出血とは多くは脳の血管に瘤(コブ)ができてそれが破裂することによって起きる病気です。発症した時点で3人に1人が無くなる怖い病気です。
基本的にクモ膜下出血では出血源が処置されるまでは、再出血を避けるために刺激を避け、血圧が高くなりすぎないように厳格に管理します。
この患者さんでは、胃カメラという相当な刺激が加わっており、再出血しなかったのが不幸中の幸いでした。
再出血するとその場で呼吸が止まったり、かなりの確率で重度の後遺症が残ったりしますので、我々としてはなるべく避けたいものです。
なぜこのようなことが起こったのか。
救急での基本は、
・気道は開通しているか
・呼吸状態は問題ないか
・循環(血圧、脈拍など)状態は問題ないか
…という順番に診ていきます。そしてその次に神経診察です。意識障害、片麻痺などの有無を診ていくわけです。
今回は気道、呼吸、循環とも問題ない方でした。しかしながら意識障害があったため、胃カメラの前に頭部CT検査を優先したほうが良かったのです。
医師は自分の専門領域に思考が傾いてしまうことがあります。今回は当直が吐血の原因として主である消化管出血がまさに専門である消化器内科の先生が当直であったこと、
目の前の「吐血」という状況に引っ張られてしまったことが原因だったかもしれません。
命を助けるという点からは大事なのは全身状態です。
腕がちぎれていたって、首に矢が刺さっていたって、全身状態を優先するのが鉄則なのです。(どれも経験済ですが)
しかし、なぜ脳卒中で吐血するのか?
それはクッシング潰瘍という現象です。頭の病気は体にとってストレスです。脳卒中により消化管潰瘍をおこしそこから出血することがあるのです。おそらくクモ膜下出血発症時の脳のダメージや、そのときに発作(正確には急性症候性発作といいます)を起こして意識が悪くなったのでしょう。
とにかく、
・目の前の現象にとらわれすぎない
・全身管理の基本を抑える
ことが大事です。
意識障害の鑑別としてAIUEOTIPS(アイウエオチップス)という言葉も我々の中では有名ですが。
一般的には、アルコール、血糖(低血糖/高血糖)、電解質異常(ナトリウムなど)、薬物、脳卒中、発作、ショック、感染、体温異常が多いでしょうね。
主訴で意識障害、脱力、めまい、片麻痺、呂律障害、けいれん…だけでなく大きな交通外傷でも頻繁に呼ばれる我々脳神経外科…
人を増やすか欧米のように給料を増やすなどしてくれないと、本当に勤務医はこのまま現象し、地方の脳卒中診療・外傷診療は破綻しますね。
(ただ、一旦破綻すればもう少しいい制度ができるかもしれないという気もしますが)
週4で当直している父親を娘はどう感じるでしょうか。
…いや、たぶんどうも感じてないですね。スーパーの生産者さんの顔写真みて「とうちゃん!」というくらいですから(涙)
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